「ユビキタスシティ構想」-近未来の街の形-(ビジネスショウパネル聴講レポート)
「第59回ビジネスショウTOKYO2007」パネルディスカッション聴講レポート
先日、ビジネスショウのパネルディスカッションを聴講してきた。
ユビテックの社名由来はユビキタステクノロジーである。ユビテックにとってユビキタス社会の実現は重 要なテーマであり、今回はまさにその議論が行われるということで聴講してきたのである。
今回のパネルディスカッション、まずパネリスト構成が興味深い。
●パネリスト(詳細は公式ページ 参照)
- 官の立場から経済産業省で「情報大航海プロジェクト」に従事する大竹氏。
- ディベロッパのオリックス不動産から企画に携わる高橋氏
- ゼネコンの鹿島建設でITを手がける松田氏
- SI・ベンダのNECからICT・NW融合の企画・マーケティングを担当する平田氏
- インフラ事業者のNTTドコモから、おサイフケータイによる生活インフラ事業者転換戦略の中核であるDCMXを担当する森山氏
政策を考える官、街を考えるディベロッパ、構造物を考えるゼネコン、ICT設備を考えるSIer/ベンダ、
消費者に密着する携帯電話事業者と上流から下流まで、日頃ICTとビジネス・ライフスタイルへの付加価値
を考え抜いている、それぞれ立場の異なる一線のプロが集まっている。こうした方々を支援する形でIPネ
ットワークをコアにセンサ・組込機器を絡めユビキタスを実現する立場の人間がコーディネータというの
も面白いと思う。
パネルではそれぞれの立場の事例や経験に基づく鋭い見解・議論が披露された。コーディネーターからは
ユビキタス社会のイメージを凝集した「ユビキタスシティ構想」が提案され、各パネリストからは、その
実現おける課題やビジョンなどについて意見・コメントが出された。各パネリストならではの含蓄に富ん
だ意見が出され、あっという間の2時間だった。


パネルは、コーディネーターの問題提起で始まった。「今後少子高齢化で労働人口は減少していく。それ
でも効率があがり生産性が向上するならよいが、実際は製造・金融以外の生産性は頭打ちである。その中
でICTはどう貢献できるか?」
これに対し、各パネリストはそれぞれの立場からの取り組み、見解を披露した。
次世代サービスの例としては
- プライバシーに配慮した未来型パーソナルサービス(個人にパーソナライズされたサービス)
- 未来型コンテンツアクセスによる新サービス(テキスト以外、例えば直感や画像などによるコンテンツアクセスサービス)
- 未来型ソーシャルサービス(ICTを有効活用した安心・安全なインフラとしてのサービス)
を挙げた。
オリックス不動産高橋氏は、ユビキタス社会の中心は「センシング技術」・「自動化ソフトウェア」・ 「資源再配賦」であり、ユビキタス社会ではリモート化・ポータブル化・リロケーション自動化が出来な くてはならないと述べた。例えば、エレベータ(縦方向)、ゆりかもめ(平面軌道)は人(対象)をセンス して動く資源再配賦自動化の事例である。そして今後は「効率化と環境負荷低減の同時達成」が必要と述べ、 モーダルシフト(環境負荷の低い輸送手段への転換)で貨物が自動輸送され、空のコンテナが自動で帰って くるような未来像を提示した。また「ディベロッパーはファイバ1本でも負担を吟味しなければ、利用しない ユーザから値下げを迫られる」として、「新規性はコストと勘案した上での販売促進要素、ディベロッパーの 理想は”半歩先”」、「コスト増は価格反映しにくいが利便性も強力な販売促進要素になりうる」と述べた。鹿島建設松田氏は、
- コンピュータコントロールによる自然換気でのエネルギーマネージメント(汐留タワー)
- センサを構造躯体要所に埋め込み、変形・損傷を瞬時に把握するリアルタイムセンシング(秋葉原クロスフィールド)
- オールIP化でのネットワーク統合による配線コスト低下
- ビル設備PC制御
- IPネットワークによるコンシェルジュサービス
を挙げた。
またモビリティ・レイアウト可変性をもたらす無線の重要性に言及。さらに現在のワークプレイスの動向
として「1.自然感覚(環境との調和)」「2. コラボレーション(チームスペース、ふれあい)」
「3.ノンテリトリアル(会議用・グループ作業用・個人作業用などの機能別ゾーニング、非組織別
レイアウト)」「4.ユニバーサル(共通のデスクトップやモジュラー配置)」「5.個による創造
(集中、コミュニケーション、リラクゼーション)」を挙げた。
NEC平田氏の発表は少し傾向が異り、時間・場所・人を生かすべく同社が試験導入しているオフィス環境
(現場力UP!手作りBBオフィス)を紹介。オフィスはフリーアクセスで、社員証(非接触ICカード)でその
日の自分の席を登録、各所にディスプレイが設置され、メンバーの所在確認や、共有情報・業績情報表示
に使われる。会議はWebで実施しているという。これら全部を手作りしているのが特徴。平田氏は「昔は流れ作
業・部分作業しかやらなかった生産現場が”カイゼン”で現場の工夫の余地を導入、個々の能力を生かす形
で再生したように、ナレッジワークの現場も担当業務のみの現状を能力をフルに生かす形に変えていくこ
とが必要」と指摘、「生産現場が100円ショップ部材で作業改善を気軽に行うように、ナレッジワークに
も手軽な部品が必要」と自分で使いやすいよう変えていく手作りオフィスの重要性を強調した。
ドコモ森山氏は、ユビキタスの普及には利便性・安全性に加え「簡便性」が重要、「便利だけではなく楽
しいが必要」と述べた。また「現在のユビキタスは”コンピュータを意識させてはならない”という重要コ
ンセプトが欠落している」、ユビキタス・コンピューティング提唱者マーク・ワイザーが提唱したように
情報機器がモノや環境に埋め込まれ目の前から姿を消すような段階に現在はなっていないと指摘した。
森山氏はさらにリアルとバーチャルの行き来でコンピュータを意識させない利便性の点で「(FeliCaのよう
な)非接触(ICカード)技術が使えるのではないか?」と述べ、「生活・仕事を豊かにしていく」というユ
ビキタスのビジョンで発表を締めくくった。
この後パネルは、ディスカッションに入った。
まずコーディネーターから「ICTを使ったオフィス」「エコを使った街づくり」という二つの視点が提示さ
れ、それに対し意見交換が行われた。
「ICTを使ったオフィス」の視点では、鹿島松田氏からオフィスの「ノンテリトリアル」が、過去からの
試行錯誤という文脈で解説された。かつてフリーアドレスはオフィススペース有効利用による効率
化を目的に導入されたが、結局は会社に自分の定位置がないためコミュニケーションが低下、ソーシャルキ
ャピタルの喪失を生み、廃れていった。それがノンテリトリアルという新しい視点で復活、現在はその中で
試行錯誤している、という。他、「プレゼンス機能は便利だが、何かする前に必ず利用しなければならない
のは不便」(平田氏)などの意見や、「ITSで、車ドロボウの位置情報も個人情報だ、といわれ困った」
(森山氏)、「個人情報の扱いは厳しくなりすぎたという議論はある。情報大航海プロジェクトでは
審議会議論だけでなく、ケースバイケースで展開していきたい」(大竹氏)など個人情報に対す
る意見などが出ていた。
ここで「エコを使った街づくり」に移る前に、コーディネーターから「ユビキタスシティ構想」が提示さ
れた。「ユビキタスシティ構想」は荻野が提唱している様々な技術や議論・課題を元にした近未来都市の
構想である。「ユビキタスシティ(リアル)と、その鏡像のセカンドシティ(バーチャル)が連携、場所
・時間など物理的制限を克服できる街」「人を感じて人に合わせて動く 安心で便利な街」「環境を感じ
て環境に合わせて動くエコな街」がメインコンセプトだ。多数のセンサで人や街を感じ(センス)し、そ
の場その人にあわせたカスタムサービスを提供したり、環境負荷が低くなる方式を実行する。また、セン
サで取り込まれた情報をセカンドシティに取り込みICTを使って加工・取り出すことで、その場・その時を
物理的に共有できなくても同じ情報・感動を共有できたりなどの新たな体験・産業の可能性を持つ街だ。



以降議論はこれを土台として進められた。
まずICTに関する環境側面での課題がいくつか指摘された。「温暖化は政府の関心事。いたるところにディ スプレイが存在し、情報を取り出すユビキタスシティでは、それら機器の消費電力も考えていかなくては ならない」(大竹氏)、「ネットワーク機器やIT設備収容のためEPS(電気設備室)が巨大化、オフィススペ ースを侵食している。こうした機器は24時間稼動する上、個別空調を要する」(松田氏)などである。
また、リアルとバーチャルの関連についても言及され、「ロボットなどのようにバーチャルとリアルの間 のアクチュアルなところが狙い」(高橋氏)「バーチャルに浸ってリアルを忘れてはならない。」「”いつ でも”、”どこでも”、”誰でも”、に間違って情報が流れてしまうと大きなセキュリティスレッド。”今”、 “この辺”、”私達”、というビルの感覚をICTに取り入れると安心では?」(松田氏)「バーチャルは現実の 補完、現実ではできないことをうまくやらせればいい」(森山氏)などの意見がでた。
その他には「ライフサイクルの差が問題。ビルは100年、ICT機器は3~4年、ソフトはもっと短い。」 (松田氏)「大型の街、というと旧来のオフィスのイメージがする。できるだけ、現場にやさしいビルで あってほしい」(平田氏)などのコメントが出された。
最後にコーディネータから
- (ユビキタスシティ実現にあたり)同業種間統合はやっとできてきているが、異業種間での融合・統合は途上
- その中で各技術要素のライフサイクルの違いが問題としてでてきている
- カスタマイズサービスによる付加価値の追求が求められている
といった要点のまとめがなされ、ディスカッションは終了した。
身内の贔屓目を割り引いても、なかなか面白いパネルだったと思う。
各パネリストの視点の違いは、全体を俯瞰する貴重な手がかりだった。またICTが社会の基本基盤として
浸透し、様々な産業が融合・連携しつつあるが、まだ過渡期の様々な課題を抱え試行錯誤をしている状況
も浮き彫りになっていたと思う。例えばライフサイクルはその例だろう。
また、大竹氏指摘のように人に優しい街は、ユーザに情報提供するディスプレイが多数設置される街でも
あるが、そうした機器の通信ネットワークは後回しにされることも多く、全工事が終了してから空き帯域
や設備空きスペースを縫って回線を引き込む状況も多いという。
ICT機器、特にネットワーク機器のエコも今後考えていかなくてはならない問題だ。たしかに3台同時起
動したらフロアの電源が落ちたり、データセンタのラックの電源すら追加しなければならないのが今の機
材装置だ。社会の中枢を担う機器としてオフィスビルや商業施設に浸透していくために、そうした課題に
も取り組んでいかなくてはならない。
こうしたことを考えると、今後、統一的な観点でビジョン構築、プラン策定を行うコーディネーションが
ますます重要になっていくと感じた。
もうひとつ感じたのは、それでも、大きな流れの中で目指す方向はアカデミック・産業界通じ、おおむね
一致している、ということだ。各パネリストの発言は共通するところも多い。ユビキタスシティ構想は
その方向性をかなり掴み取っている。「安心・安全」「便利・快適」が付加価値であり、「環境」
が重要な観点となる。多数のセンサと多数の情報を蓄積、利用しカスタムサービスを提供する。あくまで
現実の補完というバーチャルの位置付けも一致していた。
このパネルの前には慶應大学徳田教授の特別講演が行われたのだが、その内容と、「ユビキタスシティ構
想」も共通部分が多かったように思う。講演中で言及された「でもでもサービス(いつでも、どこでも、
誰でも)とだけだけサービス(今だけ、ここだけ、私だけ=究極のカスタマイズサービス)をクロスした
サービス」は「人を感じて、人に合わせて動く」目的であり、現実の世界をバーチャルに写像しそこで処
理した結果を現実にフィードバックする、という話はセカンドシティの概念に対応している。
土台は一致している。そこに異なる立場の視点を加味し修正していくことで近未来の街はどんどん現実に
なっていくだろう。ビジネスショウらしい、半歩先の議論に可能性を感じたパネルであった。
(2007/07/18 戦略企画室 矢野ミチル)
*追記:2007.7.26
本パネル、およびビジネスショウ2007の様子は下記でも記述されている。- IRIユビテックWebサイト:パネルディスカッション報告
- 公式サイト:開催結果報告
